例えばこんな【12】
それから、再び二人のオールナイトバトルが始まった。
「もう帰って、出掛けるから」
「ちょっと待て、このまま行かせるわけにはいかない」
「なに勝手なこと言ってるの、自分はどうなの」
「それは、ケイと出会う前のハナシだ。それからはやましいことは何もない」
「フン、どうだかね」
「信じてくれ」
「信じられるわけないでしょ!」
「どうしても行くのか?」
「行く」
「じゃあ、途中までついてゆく」
「なにバカなこと言ってるの」
そんなやりとりをしながら、僕はケイの後を追う。
「ついてこないで」
「ケイ、落ち着け」
「落ち着いてるわよ」
「いや、ヤケになってる」
「なんで私がヤケなの」
「オレのせいだ」
「しょってるわねえ、シュン、自分がそんなにいい男だと思ってるの」
「・・・」
それから夜の新大久保界隈を二人で徘徊。
結局【あずさ】というラブホテルに入った。
『抱き合えばなんとかなる』
という男の勘違い発想のなせる業だった。
事実、それなりの朝が来た。
でも、朝になると元のケイに戻っていた。
結局、僕を振り切ってタクシーに乗って行ってしまった。
「どうしても行くのか」
「行くよ。少し遅れたけど」
「どうして」
「シュンにそれを説明するギムはない」
「もう会えないのか」
「そうだね」
「それでいいのか」
「それは自分の心に訊いて」
そう言い残して・・・
キツかった。
初めて失恋した。
失恋がこれほどキツいとは。
茫然自失の体で、人の気持ちも知らない明るい朝の青梅街道を、東高円寺に向かってトボトボ歩いて帰った。
折しも大学最終学年、前期試験の真っ最中。
これを切り抜ければ、8月9月と丸二か月の夏休みに突入する。
でも、当然のことながら、まるで覇気が無い。
平たく言うと、まったくやる気が湧かない。。
恭子に借りてた因幡晃のLPレコード2枚を繰り返し流す。
【アパートの鍵】が沁みる。
窓辺に腰掛けて、ケイのことばかりを思い出しながら。
ハラハラと涙が零れ落ちる。
『なんでこうなった、何処で間違えた』
『ハナから間違いだったのか』
『もう取り返しようはないのか』
そんな自問自答を繰り返してた昼下がり。
「おお、西村いたか」
見下ろせば、学友の山谷と小松。
「ドライブ行こうぜ」
訊けば、知人から117クーペを借りたという。
折角だから湘南へ一緒に行こうと。
全くそんな気分ではなかったが、結果として、この能天気な学友が僕の窮地を救ってくれた。
だって、試験真っ最中にドライブなんて、能天気としか言いようがないだろう。
「西村、どうした、なんか変だぞ」
「失恋した」
「え?そうなのか」
「うん」
「え、あの国立の子か?」
「えっと、それに関連した・・・」
「なんだ、その関連したつうのは」
「まあ、今はちょっと」
「それにしてもいいなあ、失恋できるなんて。それはそれ以前に恋愛があったってことだぞ」
こいつらの能天気さに呆れると同時に、素直に納得する。
午後からの湘南だから、そんなに時間はなかった。
ただ帰途、どこかの夏祭りを通りすがりに見た。
そしてその夜、カーラジオから流れた矢沢永吉の【I SAY GOODBY SO GOODBYE】が妙に記憶に残っている・・・
全体像
