宝島のチュー太郎

20年続けたgooブログから引っ越してきました

    冬でも生のまま舐める、店主はそれが好き

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例えばこんな【5】

例えばこんな【5】



 嘘ではなく、ホントに新宿中央公園にはまだ行ったことがなかった。
だって、そこへ行く理由がないのだから、その必要はないだろう。
でも、一度くらいは行ってみてもいいと思っていた。
そこで、たった今、行く理由が出来たという訳だ。

 新宿駅の反対側に当たるから、新宿駅を目指して歩く。
歩きながら、お互いをもう少し知る。
彼女の名は、西山圭子、同級生、白百合女子短期大学を卒業し、今は家業を継ぐ為の勉強に、渋谷にある専門学校に通っている。
そして、その実家は岩手県
勿論、僕のことも正直に話す。
ある一点だけを除いて。

 新宿駅が近づくにつれ、徐々に便意が・・・
『このままじゃヤバイかも』

「あのう、トイレに行きたくなったんだけど、ちょっと駅に寄ってもいいかな?」
「いいですよ」

 西口から地下へ降りて最初のトイレを目指す。
「私も」
「うん、じゃあここで待ち合わせしよう」

 かなりヤバかった。
だって、普通ならその時間帯な訳で、まあ、健康体の証でもある。
快適に事を済ませて、外に出ると、彼女はまだ出てない。
男と違って女性は色々あるのだろう。

 ふと見ると、丸の内線の乗車券売り場がそこに。
僕はそこから三つ目の駅、東高円寺界隈に住んでいる。

そこで、また僕の頭に電球が点った。

東高円寺までの切符を買う。
勿論、自分の分は定期券があるから必要ない。
そう、彼女の分だ。
拒否されたら記念品にすればいい。
僕は、こうした記念品集めが趣味なんだ。

 彼女が出てきた。
「ハイこれ」と、いきなり切符を彼女に手渡す。
「え?」
「予定変更!俺の部屋に行こう。ここから近いんだ」
彼女は吃驚した顔をしている。

「でも・・・」
「もう切符買っちゃったし」
「なんか完全にあなたのペースに巻き込まれてない?私」
「たまにはそういうのも面白いでしょ?!」
「仕方ないなあ」という彼女の言葉と同時に僕は彼女の手を引いていた。

 通勤ラッシュにはもう少し時間がある車内は空いてはいたが、話すには大きな声を出さねばならず、僕たちは扉の近くで彼女を手摺り側に、僕がそれを守るような位置関係で、黙って立っていた。
お互いが外を見る形になっている。
丸の内線は地下鉄だから、扉が鏡になる。
僕たちは、鏡を通して時々見つめ合った。
でも、それも長くは続かない。
実は、僕はその頃になってようやくドキドキし始めたんだ。
多分、それは彼女に伝わってるだろうし、勿論、彼女のドキドキも伝わってきた。

 そうなんだ。
僕たちはまだ出会ったばかりで、猫の【地下鉄にのって】の歌詞に出てくるような関係までには、もう少し時間が必要だったんだ・・・




全体像