主人公上杉の直属の上司である柴はこう言う。
「生まれてくるんも死んでゆくんも一人ぼっちや。王様も乞食もみんな同じ。
みんながみんな、死ぬことを怖がってる。
そやから、宗教も生まれたし、芸術も生まれたんちゃうか?
生きるんは・・・束の間の夢や。」
こうした根本的な考え方が上杉の心根を刺激してゆく。
柴はまた、こうも言う。
「俺らの土俵で喧嘩してこそ勝てるんや。
相手の土俵で闘うたらあかん。
うちの会社は最下位なんやから、得意のエリアに敵を誘い込んで、一点突破のゲリラ戦やらんと絶対勝たれへんねん。」
規模の違いを承知で言えば、私も常々こう思っている。
酒自由化の波に伴って、スーパー、コンビニを始めとして、酒の売り場がグンと増えた。
今年9月に迎える完全自由化の先は、より厳しい状態になるだろう。
そうした時に、資金力豊富、優良立地、優良設備の大手チェーンとまともにぶつかって敵う訳がない。
ならば、やはり、ランチェスター言うところの「弱者の論理」を展開する以外に道はないと思っている。
上杉はこう考える。
好きなように生きたい。たかだか80年の人生、他人や組織に気を遣って生きたくはない。
元ヤクザで、今は大手酒販店社長の黒岩はこう言う。
「いかに生きるかは、いかに死ぬかということじゃ。」
上杉はこう思う。
生き方は死に方にかかっている。自分の人生を悔やんで死にたくはない。「ああ面白かった」と言って死にたい。
私は高校生の頃に、「何故、生きる?何のために生きる?」と訊かれたらどう答えようかと考えたことがあった。
そのときに出てきた答えは、「死に方を探す為に。」だった。
それは、今も変わらない。
ということは30数年、進歩せず?(笑)
妻の死を取引に利用されて、会社に失望し、辞めていく柴が上杉に残す言葉。
「美味しい酒を売ること。酒の文化を売ること。
それが楽しかった。
中略
自分の人生の周りで、酒という魔物がうろちょろしてた。
酒はドラッグや。一種の麻薬なんや。
でも、酒は悪ない。
飲んでる本人が悪いんや。
中略
会社がどうのこうのという問題より、もっと心の奥底で、酒を売る仕事自体に疑問を持ってしもたんや。
いったいなんのために酒を売っているのか、わからんようになった。
世の中に麻薬を売りつけているような気もするし、もう一方では、人と人とをつないでいるような気もする。」
仕事、職業は社会に某かの貢献が出来る実業であるべきだという考え方の発露。
金さえ生めば、なんの生産性も持たぬ虚業でもいいという考え方からは絶対に生まれない困惑であろう。
そして、最後に次の言葉を贈って締めくくる。
「職人は端っこに一番気ぃ使う。
小さな端っこがようでけてるかどうか。
そこに職人の腕がかかってる。
職人は端っこから、世の中見てるんや。
中略
端っこにいて冷静に見ることや。
頭で抽象的に考えんと、いろんな人に会うて、身体で具体的に感じることや。」
そして、上杉はこういう結論に至る。
俺から逃げてはいけない。
酒の光と影を伝える。それが俺の仕事です。
こうして一皮剥けた上杉は、本社宣伝部へ東京へ帰ってゆくのである。
爽快な余韻と共に、自己の思いの再認識と、モチベーションを与えてくれる、私にとっては有り難い本だった・・・
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